ヤプーズのギルガメッシュです。戸川純の歌う曲の中で一番好きです。この記事を書くために聞いて、ぐずぐずに泣きながら書きました。
テクノ的なサウンドでありながら、いや、むしろ生楽器であったらバランスが保てなかったのではないかと思えるほど、あまりにも人間的な感情が歌われています。テクノ的なサウンドだからこそ、余情が生じ、とても大きな感傷の広がりを感じさせているのかもしれません。公式の音源があったので、ぜひ聞きながら読んでみてください。
1番Aメロ
囁くようなトーンで、恋愛の末期における地獄のような状況が歌われていきます。曲全体を通して、神話から引用した固有名詞が多いですね。神話には詳しくないので、ちょっと調べただけではよくニュアンスを理解することができませんが……。
1番Bメロ
「堕ちる」姿が描かれつつ、それでもお互いに離れられないことが、引き続き囁くように、傷ついた声で歌われます。この曲全体を通して、枯れたような、傷ついたような歌声が本当にすごい。そして、過去に動線がひかれ、サビへと入っていきます。
1番サビ
美しい曲調が開けると同時に、出会った頃の、神話的ですらあった、あまりに美しい相手の姿、そして陶酔的な恋愛の様子が描かれていきます。それをいまの地獄のような状況から回想しているという構図がとても辛いし、傷ついた声が少し陶酔を孕んでしっとりとしていくのも含め、本当にすごい。ストリングスの導入も美しく、オルガンの音色のフレーズとともに、クラシカルな感傷を感じさせつつ、曲に一定の客観性ももたらしているように感じます。
2番Aメロ
再び囁くようなトーンで、今度は少し客観的に地獄のような状況が歌われていきます。相手を詰るだけの視点ではなく、2人の状況として描写されているのが注目されますね。
2番Bメロ
1番と似た歌詞ですが、誰が「堕ち」ているのか、というのは明示されていません。歌い手かもしれないし、2人ともかもしれないです。ここは1番に対して倍尺になっていて、現在の執着の情でしか繋がっていない状況と、過去のあまりにも美しかった恋愛に対する憧憬の対比が徐々に整理された上で、ラスサビに入っていきます。
ラスサビ
再び辛くも美しいパート。神話的なフレーズと2人の日常を思わせるフレーズが並置されていて、それが恋愛の感情的な広がりを感じさせて、とても心にくるものがあります。
ベースを聞いていると、曲のコード進行に対してサビの前半は全然素直に反応していないのですが、後半でコード進行に追従するようにようになり、曲全体がより感情的に美しく広がっていきます。
それにしても、この泣いて涸れたような、囁くのともまた違うような歌は唯一無二に感じられます。本当にすごいと思います。
戸川純は歌がうまい?
戸川純はキャリアを通してかなり歌い方が変わっているアーティストの1人です。ゲルニカやソロ初期などの澄んだ声の印象からすると、この曲のような痛々しい歌い方はかなりイメージと違うのではないかと思います。
一般的な「うまい歌」は、どちらかといえば初期の歌い方だと思いますが、自身が作詞したこの曲の歌い方は、もうこれが唯一の正解としか思えないほど歌詞と一体化しているように感じられます。本当にいい。

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